新設合併、吸収合併、新設分割、吸収分割、株式交換、株式交付の各組織再編において、交付可能な対価の種類、対価の交付先、及びそれぞれの根拠条文を表形式で整理しました
組織再編の種類 | 交付可能な対価の種類 | 対価の交付先 | 会社法の根拠条文 |
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吸収合併(存続会社が既存の株式会社) | 金銭等(=存続会社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債その他の財産。現金交付も可能) | 吸収合併消滅会社の株主(消滅会社株主は存続会社の株主となるか、または金銭等で清算される) | 会社法749条1項2号(※「金銭等」として株式・社債等から現金その他財産まで交付可能) |
新設合併(新設会社が株式会社) | 新設会社の株式(必ず含める)および新設会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債(※現金は交付不可) | 新設合併消滅会社の株主(消滅会社株主は新設会社の株主となる) | 会社法753条1項6号・8号(※株式交付事項および社債等交付事項) |
吸収分割(承継会社が既存の株式会社) | 承継会社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債および現金等(柔軟に設定可) | 吸収分割会社(事業を分割する会社)※ 原則として分割会社が対価を受領する物的分割のみ規定(株式を受け取った分割会社は承継会社の親会社となる) | 会社法758条1項4号(※承継会社から分割会社への金銭等交付に関する規定) |
新設分割(新設会社が株式会社) | 新設会社の株式および新設会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債(※現金交付不可) | 新設分割会社(事業を分割する会社)(分割会社が新設会社の株式を割当てられ親会社となる) | 会社法763条1項6号・8号(※新設会社の株式交付事項および社債等交付事項) |
株式交換(完全親会社が既存の株式会社) | 完全親会社の株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債および金銭等(株式以外の財産も交付可能) | 株式交換完全子会社の株主(株式交換により完全親会社の株式や金銭等を交付される) | 会社法768条1項2号(※親会社による消滅会社株主への金銭等交付) |
株式交付(株式交付親会社が既存の株式会社) | 親会社の株式(対価として必ず交付)+ 金銭その他の財産(親会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債等のブートも交付可能) | 株式交付子会社の株主(=株式の譲渡人。親会社は当該株主から子会社株式を取得し対価を交付) | 会社法774条の3(第1項3号・5号が親会社株式及びそれ以外の財産の交付に関する規定) |
※上記は合同会社を除く株式会社同士の組織再編について整理しています。例えば会社分割では、現行法上は分割会社が対価を受け取る「物的分割」の形態が規定されています(分割会社に承継会社(または新設会社)の株式を交付し、分割会社がその子会社を得る形) 。分割会社の株主に直接対価を交付する「人的分割」を行う場合は、別途、分割会社が受け取った株式を配当等で株主に配分するといった手法が取られます。また、株式交付は令和元年改正で創設された制度で、株式を対価として他社を子会社化する手法です (株式交換との違いは、株式交付では取得割合や対象会社株主との合意次第で一部の株式取得による子会社化も可能な点です)。各手法の対価の柔軟性については、2006年会社法施行により大幅に拡大され、現金その他の財産を用いた組織再編が可能になりました 。
ここで注目すべき点は新設の場合は現金の交付が不可ということです
ではなぜ現金交付ができないのか
→新設分割と新設合併で現金(=金銭その他の財産)を対価として交付することができない理由は、以下のような制度設計上の本質的な違いと法的・理論的背景によるものです。
結論:新設分割・新設合併では、新設会社が設立されるため、設立時に出資として拠出できるのは「株式」などの持分のみであり、現金等の交付は制度上できない。
1. 「設立に伴う出資」原則の制約
- 新設合併・新設分割では、新たに会社が設立される。
- 会社法上、会社の設立時には、発起人または引受人に対して「株式」を割り当てることが設立の本質(会社法25条以下)。
- よって、新設会社が誰かに金銭や社債等を交付する法的構造が存在しない。
→ 新設会社の立場では、設立時点で対価として交付できるものは株式(および付随する社債や新株予約権)に限られる。
2. 「新設会社には元手がない」
- 新設会社はまだ財産を持たない会社(設立直後)であるため、現金などを自前で保有していない。
- 現金等を交付するには、その原資をどこかから調達しなければならないが、それは制度上想定されていない。
→ 結果として、現金や社債を渡すことが制度的に前提とされていない。
3. 比較:吸収合併・吸収分割・株式交換との違い
- 吸収合併や吸収分割、株式交換では、「存続会社・既存会社が他社に対価を交付する」形式。
- 既存会社には自己資産があるため、現金や社債を対価に使える。
- また、柔軟な対価設計が可能なように会社法も「金銭その他の財産」を明文で認めている(会社法749条など)。
4. 会社法の条文構造の違い
- 吸収合併:749条1項2号 → 「金銭その他の財産」を含む対価を認めている
- 新設合併:753条1項6号・8号 → 株式や社債等の交付しか想定していない(「金銭その他の財産」の規定なし)
→ 立法者の意図としても、新設型は現金交付を想定していないと解されます。
✅ まとめ表
組織再編 | 対価に現金交付 | 原因 |
---|---|---|
吸収合併 | 可能 | 既存会社が自己資産で対応可能 |
吸収分割 | 可能 | 同上 |
株式交換 | 可能 | 同上 |
新設合併 | 不可 | 新設会社は自己資産を持たない/設立時の出資は株式による |
新設分割 | 不可 | 同上 |
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